初めて買ったオールドパーツ


今から遡ること35年前。
当時からランドナーやパスハンターといった「玄人向け」の自転車が好きだったこと、また、周囲のサイクリストから影響を受けたこともあり、オールドパーツの収集には並々ならぬ心血を注いだ。
当時、この手のパーツの入手には「情報」と「とにかく足で稼ぐ」ことが重要で「どこそこの店にあれが転がってた」と聞きつければペダルを漕いで出かけ、時間がある時には都内や郊外のあまり知られていない自転車店をしらみ潰しに当たっていく。
そんな風に足で稼いでパーツの入手に勤しんだものだ。

自分が初めて購入したオールドパーツ。
まずは変速機のセットを揃えたかったこともあり、埼玉県内の某自転車店のショーケースを覗くと・・・無造作に置かれていたのがコレだ。

Huret Ref.600の後期モデル。
1966年から1969年の間に製造されたフロント用変速機。

面白いのはストロークの調整ネジは1本のみ、あとはギロチンのボルトでゲージ自体をスライドさせる仕組みだ。
これに目星を付け、とりあえず恭しく眺めること数分。
値札が付いていなかったので店主に恐る恐る「これは幾らですか?」と尋ねると「あー古いもんだし安く売るよ」といった具合、確か3,000円ほどで入手できたはずだ。
ラッキー!!
こうして入手したこの変速機。
フロントバッグへとしまい込み、満たされた気分で帰路についたことを今でも鮮明に覚えている。
そしてその数週間後。
川崎にある某自転車店でコレを見つけた。

Huret Ref.1882は1970年のモデル。
おそらくはアルビー(Allvit)用の変速レバー。
環付きボルトに星マークがないのでズベルトと兼用の廉価版と思われるが、先日見つけたFDと「これならピッタリな組み合わせ!」とばかり、即購入。
値札は付いていたが・・・幾らで購入したかは忘れてしまった。

こうなるとあとは後ろの変速機!
どうしても欲しい。
願わくばアルビーかズベルト。
そんな思いを抱くこと数ヶ月、それは突然にやってきた。
何の思惑もなくフラフラと自転車を走らせ、やけに古びた自転車店を見つけたのが事の始まりだった。特に期待もせず、ふらっと店内へと歩みを進めると・・・。
思わず声がでた。
サンプレックスのレコード60や、当時憧れだった白デルリンのクリテリウム。
そして、古びたランドナーにつけられたシクロランドナー。
すごい光景だった。
自分の興奮度合とは裏腹に、店主はやる気のない顔つきでこちらを見ていたが、自分の自転車を一瞥するやいなや「これが合うね」と呟き、クロームメッキがピカピカに光った変速機を店の奥から持ってきた。

Huret Sveltoの最前期モデル。
1963年製、自分が生まれる前に発売されたもの。
ベアリングの玉当り調整が必要な鉄プリー、そしてプレスで打ち出されたゲージが何とも言えない味わいがある。
「うん、やっぱりこれが合うね」
そう念を押すように言うとニッコリと笑ってみせた。
だがしかし・・・問題は値段だ。
当時、ズベルトと言えばそう珍しくもなくプレミアもあってないようなものだった。そしてマニアの間での空気感。
「ズベルト?あれはガラクタ同然」
そんな雰囲気すら漂っていた。
でも、自分の目の前に置かれたズベルトは最初期モデル、当然現物とは初めての出会いであった。
こちらから価格を聞くのが無粋に感じられ、相手の出方を待つ時間が僅かながら過ぎていった。
「大切に使ってくれそうだから5,000円で譲るよ」
これが相場からして高いのか安いのか分からない。でも、この機会を逃してはならない、とも思った。
程なくして「譲って下さい!」と返答したことを覚えている。
斯くして、これもまたフロントバッグへ大事にしまい込み、30数キロの帰路についたのだった。

この3点セット。
数年間に渡りランドナーに装着され実働していたが、後にユーレーのルックスにその座を明け渡すことになった。

今でこそネットでいい状態の物が容易に手に入るが、当時はこれを揃えるだけでまあまあの時間と労力をはらったものだ。

たかがズベルト。
されどズベルト。

苦労して手に入れたパーツは尊いし、思い入れも一段と深いものだ。
またこの変速機を装着した自転車で走る日が来るとよいのだが・・・。

※追伸
川崎の某店以外は、どの店もすでに店仕舞いされている様子。
寂しいですなあ。

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